とある飛空士への追憶

ネタバレがあります。ご注意ください。

また、Remember11のネタが出てきます。

作品に触れたことない方は、ご注意ください。

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

貴様にひとつ、重大な任務を託したい

ガガガは新人賞を読んだきり敬遠していたけれど、これは考え直さざるを得なくなった。まあ、特別何がすごいというわけではないのだけれど、だからこそ、すごい。全くこれだから、ありきたりは、侮れない。王道とは作者によって、こうも変わってくるのか。と思う。不満があるとすれば、序盤。文章がかなりぶつ切りに感じられた。けれど、物語が進むにつれて、それが直っていく。文章力が、上がっていく。引き込まれていく。これには正直、驚いた。狙ってやっているのだとしたら、全く持って、侮れない。というか、この人ではないか。しかも、私のラノベデビューの作品だ。Remember11に思い入れのある私としては、左の挿絵がよかった。いや、この人の挿絵もいいのだけれど。調べたら実は他の作品も出している様子。知らなかった。

次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ

身分の違う、男の子と女の子の話。空戦物。

ねえ、踊りましょうよ、シャルル

おいおい。マジかよ。ラノベ的、お約束的展開まであるらしい。本当に、侮れない。まあ、空戦だけ展開させられても、その知識に乏しい私にはつらいのだけれど。とにかく、このような展開に心を揺さぶられるとは、思ってもいなかった。そこそこの数のラノベを読んできているので、耐性が出来ていると思っていたのに。そして、急速に加速する二人の心。うーん。好みでない展開のはずが、何か良い。清々しい。赤受咸青。

塩辛い風のなかにはどこか、夏の終わりを思わせる匂いが含まれていた

空戦の知識のない私にとっては、想像に難しい場面が多々あった。なので、サンタ・クルスをアヴニール、真電をファントゥームに勝手に脳内変換。ついでに、シャルルをシエル、ファナをファム、千々和をリヴァルに変換。やばい。「スカイガンナー」やりたくなってきた。というか、微妙に名前が似ている…まあ、いいか。気にしない。

馬鹿

いや、これはきれいに締めくくった。強引に引き離される二人だけれど、お互いの気持ちはまだ…綺麗に別れを告げたくて、いや、違うか。きちんと想いを伝えたくて、シャルルは決心する。そしてそれは、ファナも同じ。踊ってよ、シャルル。あのときの答えを、今ここで、返す。もしかしたら、空に舞った砂金の粒は、シャルルの涙、だったのかもしれない。

だからふたりが辿った結末は、あなたが決めるしかない

読者に想像する余地を残すのと、投げっぱなしになるのとでは、違う。この作品は間違いなく前者であると、私は感じた。そして、ともすれば蛇足的にしかならないような締め方だけれど、それを感じさせないところが、またすごい。それにしても、この表紙は…読み終わってから見ると、とても感慨深いものではないか。と、思った。