失踪HOLIDAY

ご注意ください。致命的なネタバレがあります。

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)

失踪HOLIDAY (角川スニーカー文庫)

わたしもラーメン食べたかったよう

ぼくと雪村と子猫。彼らの日常が描かれる。小さな幸せ。些細な出来事。読んでいるだけで、心が温まる。安らぐ。徐々にお互いの好みがわかってくる。心が通じ合う。雪村はなかなかに頑固である。そしていたずら好き。子猫のようだ。

謝りたくても、彼はもういない

彼らの日常を書くだけではダメかと思ったのか、こちらを書きたかったのか、両方なのか、それ以外の何かなのかはわからないけれど、この作品の山場。ミステリ部分。解決後、ぼく、または、雪村の心境に変化が生じたからか、時間切れなのか、作者の都合なのか、わからないけれど、雪村がいなくなってしまう。というか、子猫は何かを象徴していたのだろうか。わからない。

わたしが心から好きななったものの一つじゃないか

雪村の、最初の、最後の、告白。彼女が撮っていた写真の数々。その理由が、わかる。雪村が愛した世界を、彼も愛せるだろうか。彼は変われるだろうか。絶望感を拭えるだろうか。おそらく、カーテンを開き、窓をあけた彼は、際限なく広がるこの美しい世界を、はるか遠くまで続く道を、その一歩を、踏み出すはずだ。嫌いになど、ならないはずだ。もう孤独に死ぬことを、切望しないはずだ。雪村の行かなければいけないところが何処かはわからないけれど、際限なく広がるこの美しい世界の先であればいい。それが彼の道の先であるならば、こんなに素敵なことはないではないか。

――――である

が口癖の、人を信じることの出来ない、人の温かみをまだ知らない女の子、ナオの話。失踪HOLIDAY。家出のきっかけになった、部屋に入った犯人も、結局は自分の心。まあ、それに便乗して漁夫の利を得た人達もいるけれど。彼らは、なかなかにしたたかだ。それでも、一番得たものが大きかったのは、ナオだろう。

乙一(糸くずではありません)」

それにしても、白乙一の作品には、本当に切なくさせられる。文章もいいけれど、挿絵もすばらしい。特に雪村。作品に見事にあっている。そういえば、雪村の手紙はすごくよかった。特に口調。私の琴線にとても触れた。まあ、相変わらず謎解き部分に関しては、何一つ触れていない感想だけれど、そのようなものは必要ないではないか。余計な茶々を、入れるだけではないか。などと、自虐のような、言い訳のような、本書のあとがきのようなことを言ってみる。とはいえ、私は乙一のあとがきが好きである。あれ…もう少し気の利いた言い回しを考えていたはずなのに、何かおかしなことになった。どうもすみません。