ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック

お気をつけください。若干ネタバレしています。

ROOM NO.1301―おとなりさんはアーティスティック!? (富士見ミステリー文庫)

ROOM NO.1301―おとなりさんはアーティスティック!? (富士見ミステリー文庫)

僕は恋愛に向いていない

とかいいながら、開始早々告白されているのは、本書の主人公である絹川健一。本書にはたくさんの女の子が出てくるけれど、彼女たちと健一との掛け合いが、なんとも独特の雰囲気だ。西尾維新支倉凍砂とはまた違った意味で心地よい。しかし、ROOMは何故富士ミスなのだろう。あるはずのない十三階が、そしてその階の構造が、神秘的とか不可思議とかの意味でミステリーなのだろうか。いや、どうでもいいか。野暮なことは気にするものではない。気にしてはいけない。

食べないってレジスタンスだったの

桑畑綾。この言葉でわかるとおり、とても頑固である。というと語弊があるかもしれない。自分の信条に忠実なのだろう。それにしても、何なのだ。この破天荒ぶりは。空腹で道に倒れている。おかしな金銭感覚。出会ったばかりの健一を家に連れて行く。白衣。いきなりの脱衣。一緒に入浴。わき毛生えてる女はどう思う?等々奇行の数々。例を挙げればきりが無い。彼女の行動がミステリーだったのか。とさえ思う。けれども、それでも、私はこのキャラに魅了されている。

ちゃんとアピールしますから

大海千夜子。本書でもっとも健気な子だろう。本書でもっとも負けず嫌いな子だろう。そして、本書でもっとも不憫な子だろう。それがどれほどのものであるのか。私には語れない。本書を読んで貰えばわかるだろう。

気にしてる娘にはわかるかもな

健一の姉、蛍子。この台詞一つで蛍子の気持ちがだだ漏れのような気がするけれど、彼女自身には当てはまらない、ということか。それとも、姉は例外、ということか。それでも私は、この台詞以降、彼女のツンが全て嫉妬にしか見えない。しかし、私は断言する。彼女は本書一魅力的なキャラであると。というか、萌え。

僕は恋愛に向いていない

それはまずいだろ。というようなことが本書では平然と行われていく。行為の話ではなく、道徳的な話。健一はそれに悩みながらも自分自身の答えを出していく。本書の人物は、お互いをとても尊重しあっているように見える。一人ひとりが自分の考えをしっかりと持っているように見える。そして、自分の考えと違っても、それでも理解しようとしているように見える。行き当たりばったりの台詞の数々に見えるけれど、その一瞬を精一杯考えた結果なのだと思える。起こった出来事を、そのありのままを受け止めている。彼らは本当に十代なのだろうかと思えるほど落ち着いていて、やはり十代なのだなと思わせるほどに澄んでいる。時々見せる少しの幼さがどうしようもなく愛おしく思える。彼らの今後を見守りたいと思える。そんな不思議な雰囲気を醸し出している。なるほど、ミステリーだ。


しかし、本書はなんと感想の書き難い作品だろうか。私では、この雰囲気を言葉で表すことが出来ない。けれども、ただ一つ、言えることがある。健一はフラグ回収が上手すぎる。次から次に立つフラグ。そのことごとくを成立させる。恐ろしい。