阪急電車

若干のネタバレがあります

阪急電車

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今津線を主人公にした物語

電車が主人公になり、それを使っている様々な人々の物語。これは面白い。実は図書館戦争シリーズが途中まで読んで積んであるのだけれど、優先して読もうかな、と、思ってしまった程だ。文章自体とても読みやすいし、考え方自体がとても参考になる。それは、初っ端に出てくる生という文字の考察でわかる。それはまた後で、書こう。

人を恨んでも詮無いなんて正論は

正論とわかっていても、それに肯くことが出来ないことがある。理性と感情は、別の話であるのだということが、ある。

甲斐犬だけは飼わないから安心してね

それに連動するようにつながる次の話。時江が秀逸。おそらく、本書で一番人気があるのではなかろうか。と、勝手に思っている。孫の性格を把握し、翔子の事情を把握し、空気を把握する。そして選択した行動は、周りを傷つけることなく、恥をかくのは自分のみ。なかなかできることでは、ない。それは、相手がその配慮に気が付かない場合、損をするのは本当に、自分だけになってしまうから。また、私もそうなのだけれど、歳を重ねるごとに、経験を積むごとに、視野というものは、狭まっていく。それは、今まで過ごしてきた時間に裏打ちされた自信が、邪魔をするから。譲れない想いが、増えるから。にもかかわらず、押し付けることなく、投げっぱなしになることなく、きちんと相手に考えさせるような、そんな言い回し。助言とは、こうであるのだというように。それでも、時に厳しく。ミサの場面では、下手をすれば逆ギレされかねないこの状況で、孫を泣かされたのにもかかわらず、ミサを想い、ミサの心に響く言葉を、まるで弾丸のようなそれを、言い放つ。かと思えば、頑固な部分があったりする。秀逸だ。

人間的にどっちが上等なのかしら

心の余裕は、時間の余裕。歳を重ねるごとに、本当にそう思う。まあ、今の世の中において、見ず知らずの人に声をかける勇気自体、減ってきているのだけれど。常識を身に纏うごとに、視野が狭くなると上述したけれど、加えて、一歩を踏み出す勇気というのも、薄れていく。臆病になると言うよりかは、保守的になるとでも、言うのだろうか。若さゆえの特権は、そのパワーは、プラスにもマイナスにも働く。私にも、そのような時期があったのだと、思い出した。その頃の私のことを、恥ずかしくも思うし、羨ましくも、思う。

図書館戦争の主人公もそうだったけれど、本書に出てくる女性も、気が強い。いや、まあ、気が強いというだけでは語弊があるか。言葉にはしにくいけれど、大切なもののためには譲れない、ように見える。こういう性格の登場人物の方が、物語を動かし易いのだろうか。それとも、有川浩という人物がこのような性格なのだろうか。というか、女性だったということを、本書のあとがきで初めて知った。まあ、読了した作品が本書だけだという、私のダメっぷりがいけないのだけれど…特にユキ。一番いきいきしているように、見えた。

人の形に合流している駅だ

そして最初に出てくる、生という文字。あわせて人生。それは、この電車を、ひいてはこの物語を、象徴しているものなのだろう。人々の大切なものを乗せている。運んでいる。それとも、もしかして、電車自体を人生に見立てているのだろうか。毎日同じ景色でも、少し視点を変えてみれば、視野を広げてみれば、こんなにも、色々なものが見えるのだと、そう言わんばかりに。また、本書の半分以上は、恋愛がらみの話である。ということは、有川浩の人生の半分以上は、恋愛で出来ているのかもしれない。もしそうであるのならば、それはとても、素敵なことだと、そう思った。

これはヤバイかもしれない…今は平気だけれど、数年後、この感想を読み返したとき、恥ずかしくて、悶えるかもしれない。まあ、いいか。それは、数年後の楽しみとして、とっておこう。